手をさしだされて思わずカミュは困惑した。
「いえ・・・それは・・・」
「はは、冗談だよ。・・・つい歌姫をエスコートしたくなったのだ」
「・・・・。」
そして2人は用意された車でオペラ座へ向かった。
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長い夜が幕を明ける。
「・・・素敵だ。流石はパリでも由緒ある歴史を持つガルニエだ」
歴史の存在感と哀を込められた重厚な石造りの外観。
多くの観客のために、そこは上品な明かりによってライトアップされ、更に胸を躍らせる美しさをまとっていた。
「ふふ・・・やはりわかっている者と来るのは楽しいよ、カミュ。そう・・・ここは、あのオペラ座の怪人の舞台としても有名だからね」
「ああ、・・・どうりで。あの舞台の造りに通じるものを感じるわけですね」
「カミュ・・・お前は本当にいい感性だね。
席へと向かう為、2人jは重厚な階段を上り始めた。
「やはりお前を連れていると皆振り返るな」
「珍しいのでしょう、こんな外見が。」
それに皆が振り向くのは自分のせいだけではないと思うが。
「お前は美しいよ、カミュ。今夜のこの舞台には誰よりも相応しい」
「私は歌いませんよ」
「ふふ・・」
『既にお前は別の舞台にあがってるのだよ、カミュ。わたしとお前、たった二人の』
「ああ、ここだ。カミュ、先にどうぞ」
「・・・ありがとう、サガ」
初日のソワレとあって、周りは華美な衣装に身を包む女性が目立つ。
だが、隣に座るその人には一層華やかなオーラがある。
華やかながら品があり、まるで彫刻のような造形。
ミロとはまた違うオーラで人を虜にする。
「今夜の演目は、偶然にもドンファンだ」
「ええ。オペラ座の怪人にも出てきますね。婦人に飽きた主人が、可愛いメイドを屋敷から連れ出して2人で暮らそうとするが、実はそのメイドと婦人が恋仲で、主人を亡き者にしようとする・・・・滑稽さやアイロニーを秘めた素敵な舞台です」
「ほう、くわしいな。しかしこの話の魅力はそれだけではない」
「・・・・それは・・・?」
「ふふ。教訓だよ、カミュ。結局今も昔も、わたし達は好きなのだよ。・・・同姓の肉体と、秘めた恋が・・・」
サガの瞳に映るのは、薄暗さを与えられた場内の控えめな色だった。
・・・・なのに、目が離せない・・・・。
その時、開幕のブザーが鳴り、2人の視線は舞台へと注がれた。