仕方なくカミュは1人ムーリスに向かった。
名前は知っていたが、実際に足を踏み入れるのは初めてだった。 ドアマンはカミュを見ると丁寧な仕草で中へ迎える。 「・・・・・。」 重厚な絨毯に靴が沈む。華々しい、なのに柔らかな光を放つシャンデリアに目を奪われた。 『やはり・・・凄いところだな』 ミロと泊まっているプチホテルとは、当たり前ながら雲泥の差だ。 そうカミュが感じていると、またもや背後から呼び止められた。 「おや、カミュ。・・・・1人なのかい?」
片手に新聞を持ったサガだった。どうやらロビーでくつろいでいたらしい。 「ええ・・まあ・・・」 「ミロはどうした?」 「・・・気分が悪いから部屋で休むと・・・。」 「ふ・・・ん、やはりな」 「え?」
かすかにサガの口端が上がったような気がした。 「ふふ・・・いいや。わたしはかえっておまえ一人の方が良いのだよ。ものの良さを共有できる人間と見るほうが、互いに楽しめるというもの・・・」
「・・・・そう、だな」
さっきまでのミロを思い出し、ためらいがちにもサガに同意した。
「でもその服装では少しそぐわないな」
「あ・・・」
ミロとのケンカで着替えるのをすっかり忘れてたカミュ。 そこでサガ、自分の部屋のキーを渡す。 「今夜来てくれた御礼だ。部屋に君の服を用意してある、着替えてくるといい」 「いや、そんな」
「値の張るものではない。いいから、快く受け取ってくれないかな?これがルームキーだ。わたしはここで待っているから、着替えておいで」
そうサガに微笑まれて、カミュはその言葉に従う事にした。 そんなこんなで1人サガの部屋へ。 「・・・・まったく」
何から何まで一流なのがサガらしいと思う。 たった一人で最上階のスイーツとは。 部屋に足を踏み入れた途端、その柔らかさに驚いた。 ロビーとはまた比べ物にならないほどの、豪華なカーペット。窓辺には金の刺繍のあしらわれた、幾重にも重ねられたカーテン。 白熱灯を思わせる柔らかなシャンデリアの光に包まれながら、カミュはサガに言われた通りに、ベッドの上に置かれたケースに手をやった。 開けると高そうな服が置いてある
「こ、れは・・・」 一目で高級品とわかる、上品な質感と身にしっくりと来る着心地にため息が出る。 スーツのタイピンには翡翠がはめられていた。
・・・怖いくらいに、サイズがぴったしだった。 まるで抱きしめられているかの様な、心地よい着心地。 『誰・・・に?』 このスーツを自分に送ってくれたサガを思いながら、カミュは複雑な気持ちになった。 そして外を見ると夕日が沈みそうなカンジ。 ミロの事を考えるカミュ。 「あいつフランス語も判らないのに・・・」 思いながらカミュはサガの待つラウンジへ降りていった。
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