結局、鑑賞後には、スーツを返す前にムーリスで夕食を、という事になった。


豪華な食事の後、エスプレッソと一緒にプチフールが出される。

「・・・どれもとても美味しいです」

「気に入ってもらえて嬉しいよ。ここは最上級の味だ。まさにお前にふさわしいな」

「・・・・そうでしょうか?」

最上級の食事の後に出されても引けを取ることのない、上品に並べられた、甘くて美味しいプチフール。
なのに頭に広がるのは、どうして今日見たミロの顔なのだろう・・・。

 
『こんなに美味しいケーキ食べたのは初めてだ!』

『カミュと一緒に食べている、っていうのが実は美味しさの基本なんだよね。俺はいつも』

ミロのセリフが頭をよぎる。

目の前の豪華な食事を口に運ぶが味気ない。そんなカミュを見てサガは話題を変えた。


「ところでカミュ、君らはどこに宿泊しているんだい?」

「凱旋門近くのバンヴィルというプチホテルですが・・・。」

「・・プチホテル? 何故そんな狭いとこにいるんだい?もっと快適なところが沢山あると思うが」

「ミロが堅苦しいトコは嫌だと。それに普通のパリを体験したいと言うので・・・」

「やれやれ。彼は自分が抱えてる華に相当の器を用意する事を判ってないようだな」

「え・・・」

「美しい大輪の華には相応しい場所があるだろう」

カミュの瞳を見据えながら、話す。

「・・・・別に・・・・私は」

「たとえるなら、お前に似合うものというのはこういう事なのだよ」