その頃ミロは、適当に街中をふらついて、休もうと思い、カフェへ向かった。

「カフェ・・ボーズ・・・。」

昔カミュと見た映画に出てきた場所だと思い出す。

「確かタイトルは『猫が行方不明』・・・だったっけ?」

今はカミュが行方不明だけど。


もちろん言葉がわかるわけも無いので、なんとか身振り手振りでオーダーをすませお茶をする。
周りには楽しそうに話す恋人達の姿。その姿を横目にミロはタメ息をついた。


店を出ると、たまたま、「オペラ座の怪人」のポスターが貼ってあるのが目に入る。


『俺だってこの位有名なら知ってるんだけど・・・。』


あ〜あ、カミュはサガにさらわれるし、俺ってここに何しに来たんだ??
その時慣れ親しんでいる言葉が聞こえた。


「あんたにも心を焦がすような思い人がいるのかね?」


カフェの隣にある花屋から、いきなり話しかけられた。


「え・・・おばぁちゃんギリシャ語が?」

「ああ。もとはエーゲのそばで育ったんだ。さっきあんたがカフェで下手な英語とギリシャ語で話しているのを聞いていたのさ。ここで花を売りながらね」

「へぇ・・・それにしても綺麗なバラだな」


まるでカミュみたいだ。


「ふふ。わたしの最初の質問、聞いていたかい?」

「え・・・ああ。・・・それは・・・・」

今日すっげー怒らせて、今こうして別行動中なんだけどな。
老女はまじまじとミロの顔を見る。


「なに?」

「・・・あんた、見た目はちゃらちゃらしたガキだけど、心には一筋の、炎の様な情熱を持っているね」

そう言って、数本の真っ赤なバラを束ねて、ミロに差し出した。

「これは・・・・」

「同郷の縁と、あんたの恋人に、わたしからの祝福さ」

「おばあちゃん・・・・」

「それから、これを知っていると無粋なおまえさんもきっと上手くいくさ。」

そういっておばあさんはミロに「ブートニア」の話をした。

女性がプロポーズの言葉に対し、OKの意味を込めて、その男性がくれた花束の中から1本を抜いて、
男性の胸のフラワー(ボタン)ホールに挿したのが「ブートニアの始まりだ。


「もしもその恋人がフランス人なら、必ずしっているはずさ。わたしの花を持っていけば、きっと上手くいく」

「・・・・ありがとう。俺、なんにも返すものないけど・・・」

「いいんだよ。恋と情熱をその花に託すことが出来ただけで、わたしは本当に嬉しいのだからね」


そう言って、老女はミロに、にっこりと微笑んだ。