かくし芸大会11-最終回-

「さて・・・ミロよ。」

「・・・はい」

「最後になり、さぞ心待ちであったろう」

「・・・・いえ」

「思う存分披露するがよいぞ!」

「・・・・。」

「どうしたのだ?」

「・・・実は俺・・・。」

-----おととい-----

「お久しぶりです、童虎さま」

「これは珍客な・・・スコーピオンだったのお?お主の手紙、先程届いたぞ」

「はい・・・ミロでいいです、ではどういう用件か解ってますよね?」

「どうもアノ手紙では要領を得んのだが・・・」

ミロはかくし芸の事を話し始めました。

「俺、かくす芸なんて持ってないです!」

「ふむ、確かにお主は隠す性格ではないからのぉ、ハハハハ」

「笑いごとじゃないです!!どうしようこのままじゃ・・・」

「まあ、シオンの事だから・・・よいではないか、たかが隣国まで投げられるくらい」

ジジイは愉快そうです。

「人事だと思って!!」

「ところで何故ワシに聞くのじゃ?」

「だって200年以上の付き合いでしょ?なんか弱みの1つでもないかと思って・・・。」

普通は親友、いえ戦友の弱みなぞ教える訳ありません。

「フム、ないでもないぞ」

「ええっ!マジで!!」

ええっっ!教えるのですか?!

「では取引しようではないか」

しかもさりげに黒いです。

「え?俺、金なんかナイけど・・・。」

「そのような考え聖職者にあるまじき行為である。大体ここでは金など通用せん」

辺りを見てミロも納得です。

「・・・・んじゃ何?」

「何、簡単なことじゃ。たまに何ぞや面白いモノを差し入れしてくれればよい。」

「は?面白いモノ?」

「ここは退屈でかなわん。刺激がほしいのぉ」

それは聖職者にある行為なのか、もう謎です。

「よく解んねーケド、まあ解った。デスにでも頼んでみる」

「おお、その選択は正しいのぉ。お前は結構人を見る目がある」

「だろ〜」

・・・・そうかな。

「では良い『かくし芸』を授けようぞ」

「うんうん」

そして何やら2人でコソコソと話しはじめました。

どうせ誰もいないのに。

「ええっ!!それ反則じゃん!!」

「それはそれで特技であろう、ははは。」

「でも・・・それ判断できないものじゃ・・・。」

「だからよいのじゃ」

「・・・・でも、多分、ムリだと思う」

「では、諦めて放られるかしかないのぉ」

「うう。解ったよ・・・やってみる」

「では心から応援しておくぞ」

「どーも・・・」

・・・・そんな童虎とのやりとりを思い出し、意を決すると静かに口を開きました。

「俺・・・速記ができます」

「は?」

「ええっ!」

「ミロ・・・お主そのような事いつの間に?」

シオン様も皆もびっくりです。

「え、えーと、まあちょっと昔かじって・・・。」

「うむ、そうか・・・しかし私には速記というものが解らんのだが・・・サガ、お主解るか?」

「申し訳ございませんが、生憎わたくしも速記は解りかねます」

「う〜む、お主さえも解らんとなると困ったのぉ・・・。」

さすがに判断がつかないと審判出来ません。シ・・ンとなったその時です。

「教皇。私は解ります」

「!」

「カミュ、お主解るのか?」

「・・・はい」

「よし、では判定はお主に任せよう。前へ出て参れ」

ミロの目の前にカミュが出てきます。

「では、カミュ。お主が喋った事をミロがきちんと書いているか判断せよ」

そしてシオン様は筆記具と紙をミロに手渡しました。

「かしこまりました。では・・・」

そう言うとカミュはしばらく考えて口を開きました。

「『もし世界中の人間の悩みを一ヶ所に積み上げてその人数に分け、平等に分配したら、大抵の者は自分の取り分に満足して立ち去ることだろう。』」

その言葉をミロは初めて聞いたような顔をしています。

「アレはギリシャ7賢人の1人、ソロンの言葉ですよ」

「確かに。しかしムウ、賭けてもよいが、ミロがそのような格言を知る訳がない。」

「つーことは、アレが書けたらミロは『そっき』とかいうのが出来た事になるんだよな?」

リアの質問にさすがの2人も納得せざるおえません。

「ミロ、見せてみろ」

「・・・・。」

カミュの手に紙を渡します。するとカミュは黙りこんでしまいました。

「どうだ?デス。見えるか?」

「ここからだと、あまり読めない・・・つーか、あんなミミズ文字読めるかっつーの!」

「さすがに速記なんて判らないしな」

年中組も興味深深です。

「どうした?カミュ?合っておるのか?そうでないのか?」

「え、あ、・・・・あの・・・・」

カミュはじっとミロを見つめます。

「・・・あ、合っています・・・・。」

ミロはにっこりしながらカミュを見ています。

一同がどよめきます。

「・・・・これじゃ聖戦も近いハズだよな」

カノンが呟きます。

「で、では何か次の問題を出すがよい」

「・・・・はい」

カミュはタメ息をつきながら続けます。

「『悲観論者の最たるものは人生を価値のないものとし、楽観論者の最たるものは、全てが世界中で最上とする。・・・・そして両者とも真実ではない。』」

「んーと・・、はい。」

ミロはカミュがいい終えると同時に紙を渡します。

「?!」

「どうした?カミュ?合っておらぬのか?」

「え、いえ、そうではなく・・・」

「おお、すごいな!ミロ!!ちと、お主への見方を考え直さねばいかんのぉ」

大羊は心底感心しているようです。

「ありがとうございます」

ミロはにっこりと返事をします。

「ミロ。お前・・・」

「何?」

「もういい。」

「付き合ってくれてありがと。カミュ」

「・・・どういたしまして」

「うむ。これでかくし芸大会はお開きじゃ。皆のもの、ご苦労であった」

誰のせいで苦労してるのか本当に判ってるのでしょうか。
そうして各自の宮へ戻っていくのでした。が。

「待って、カミュ!」

「・・・・・。」

「ねえ、ったら!!」

「ついてくるな!!」

「じゃあ、何で怒ってるのさ!」

カミュの手をつかみ振り向かせるとじっと見つめます。

「・・・・私は自分の馬鹿さに怒ってるだけだ!」

「ごめん・・・。でもカミュ俺のこと解ってるだろ」

「ああ、お前が速記を出来るなんて初耳だ」

「そんなの出来るわけないじゃん、だからもうカミュに任せようと思ってさ。」

「お前の悪筆さは筋金入りだからな。あれは象形文字だ!」

「でも、よく読めたなぁ、さっきの。」

「お前の字は慣れている。読めるのは私くらいだろう」

「んー、だからさ童虎が俺に言ったんだ。誰も速記出来ないと思ったから。けどあせったぜ、カミュ速記読めるって言うんだもんな〜。もうびっくりさ。」

「びっくりしたのはこっちの方だ!あんな事書くやつがいるか!!」

「あんなって?」

「『実はこの案、童虎に教えられてさ、だから俺が隣国まで飛ばされるか否か。カミュ次第なんだよ〜』とか。」

「ははは」

「で、仕方なく合ってると答えたら『カミュありがとう、だからあい・・・』とか」

「『だから愛してる』だろ」

クスクスとミロは笑います。

「いや〜、遠くまで行った甲斐があったよな〜。」

「お前のような奴の事を『活動的な馬鹿より恐ろしいものはない』というのだ」

「えー、『友人の果たすべき役割は、間違っているときにも味方すること。正しいときにはだれだって味方になってくれる。』だろ」

「お前の格言の使い方は間違っている!!都合のいい事だけ覚えるな!!」

「そうかな?」

カミュは諦めたようにゆっくりと歩きはじめました。

「あ、ねえカミュ。童虎には何持って行こうか?」

「デスマスクにでも聞くんだな」

「あ、やっぱり?俺もそう思うんだよな〜」

ミロが隣で楽しそうに喋りはじめるのを見るとカミュはある言葉を思うのでした。

「まったく・・・『ただしき者は悩み多し』だ。」

そうして数日後、蟹イチオシの刺激的なものをミロは五老峰へ届けるのでした。


おしまい。

ようやく馬鹿話も終了です。ここまでお付き合いくださり本当にありがとうございました。
デスマスクが選んだモノはご想像にお任せします(笑)
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